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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第133号

2018年2月1日発行

〜老いて学べば寿(イノチナガ)し〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

この表題をご覧になって、佐藤一斎の「言志四録」の有名な言葉を想起される方は多いと考えます。その通りです。これは、「言志四録」に全訳注をつけられた川上正光さんが、佐藤一斎さんの有名な句、「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」の説明のなかで、一斎先生には内証の内証にしてこう直した方がご趣旨に合うのではないかとされている言葉です。

しかも、川上さんは、この言葉をあるところで紹介した時、少、壮、老というのは何歳をいうのかとの質問に答えて、それは年齢というより気持ちだと説明して、皆さんよくご存知のサミュエル・ウルマンの「若さ」(今では「青春」と膾炙されていますが、川上さんはこの本の中で「若さ」と紹介しています。)という詩で若さが人生の一時をいうのではなく、心の状態をいうのだと述べていることをとりあげておられます。しかも、この詩は、例の第二次大戦の日本占領連合軍最高司令官だったマッカーサー元師が座右の銘にしていたものであるという解説まで加えておられます。

この「言志四録」は、今NHKテレビで取り上げられている西郷隆盛が愛読し、彼がその中から金科玉条として取り上げていた二十四条にはこの言葉は入っていません。しかし、これは非常に有名な言葉で間もなく九十三歳になる私もこの言葉を時に想い起こして緊縛しています。そう言えば、先般このメールマガジンの巻頭言で、ご紹介したバーシュさんたちの著書「大人の女のキャリア計画」(海と月社刊)の中でも、物事を実行することの「意義」を認識すると、そのことの第4番目の機能として「健康になり、スタミナがつき、打たれ強くなる」というのがありました。何事でも一所懸命にやってみようと思うようになったら、川上さんが仰言るように「寿(イノチナガ)し」人生を作り上げられるのかもしれません。そういう意味では、私がこの年齢まで元気に務められたのも、色々な仕事をやらせて頂いてきたからかもしれません。本当に有難いことでした。私は何よりもこうした仕事を与えて頂いた皆さまに、衷心より御礼を申し上げなければなりません。

しかし、それとは別に、最近、あることから以前に拝読していた「言志四録」を再読する機会があり、その全訳注をされた川上正光さんは凄い方だと思いました。川上さんは、東京工業大学で電子工学の講座を担当され、同大学の学長も勤められた方です。決して儒学の専門学者ではありません。にもかかわらず、皆さんもこの四冊に及ぶ一斎の「言志四録」をお読みなると判りますように、ご専門の電子工学とは全く違うこの分野のご造詣がいかに深い方であったかが判ります。それに比べると私など恥ずかしいかぎりです。

ともあれ、先日も新聞発表されましたように、今や人生五十年の時代ではなくなりました。九十歳以上の方々が二百万人を超える時代になりました。私だけでなく、みんなで学ばねばならぬ時代になったのです。