「理事長 新野 幸次郎 巻頭言」一覧へ

神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第132号

2018年1月4日発行

〜やっている仕事の「意義」を認識することについて〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

オリンピックに出場したいという願望をもった若い人達はいま必死になって練習を繰り返しています。一所懸命になっているのは選手達だけではありません。その父兄や友人や先生方もみんな真剣に応援しています。よくあんな苦しみを乗り越えて頑張れるものだと思うほどの努力です。

スポーツだけではありません。色々な分野でよくあそこまで頑張れるものだと言える精進をしている人達がいます。そんなことを説明する心理学的研究は多いのですが、ここで皆さんにある米国の有名な事業経営者になった女性が書いた「すぐれた女性たちはいかにリードするか」(邦訳本は、「大人の女たちのキャリア計画」となっています)という本に書かれていることを引用させて頂きます。バーシュさんを中心とする彼女達は、米国で立派な仕事を成し遂げた何人かの女性達と面談した結果をまとめています。ここでは字数の制約もあって全部とりあげられませんが仕事の意義を見出すことをはじめ幾つかのことを成し遂げていることに注目しています。とくに仕事の意義を見つけることの機能として次の4つのことができるようになると述べています。まず第1は「やる気が出てくる」で、第2は「創造性が高まる」、第3は「周囲への影響力が高まる」、そして最後の第4は「より健康になり、スタミナがつく」というのがそれです。

これは極めて重要な指摘です。オリンピックに出場することの意義に刮目した若い人達のあの意気込みとその努力を説明するだけではありません。例えば、政府や地方自治体が、何かをやろうとする時、そのことの意義を国民の皆さんに理解し、見出して頂いているかどうかでその成否が決まるということも教えています。そう言えば、どの段階の政策担当者も特定の政策と関連して、そのことの重要性は説明し、その実現の絵は示してくれます。しかし、往々にしてその事の意義を本当に国民の皆さんに認識して貰う努力を積みあげていないことが多いことに気付きます。もしそれに成功していなければ、そういう提言は絵に描いた餅のようになってしまいます。単なる綺麗ごとが書かれた報告書づくり、提言づくりに終わってしまいます。

かつて、ノーベル文学賞を貰ったバートランド・ラッセルは、「教育論」の中で、教育の目的は活力、勇気、感受性および知性をつけることだと述べています。ものごとの意義を見出すのには、何よりも強い感受性が必要で、そこで受けとめたことを実現するためには、知性と勇気が必要です。しかし、難しい課題であればそう簡単に実現できません。何よりも活力が、すなわち、健康で強い意志と粘り強い努力が必要です。私たちは、政策を掲げるだけではいけません。それを実現する人達を作り出し、その人達を支えていくことが必要です。