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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第127号

2017年8月1日発行

〜物語でまちは生まれ変わる〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

表題は、私が考えたものではありません。この年来、世界の地方創生やリノベーションについて研究してこられた松永安光鹿児島大学名誉教授が、「リノベーションの新潮流」(学術出版社刊、2015年)という共著書の帯に書いておられる言葉です。この本では、欧米およびアジアの8カ国19都市の再生や救済などについて分析し、これらの都市で、そのもってきたレガシー(遺産)とそれにまつわるレジェンド(言い伝え、あるいは、色々な伝説)などをとりまとめて、それで人々をひきつけずにはいないようなストーリー(物語)にまでまとめあげることで成功した事例を示しておられます。

産業構造や生活水準やその中で生きる人々の価値観の変化などで、どこの国でも都市や地域の大きな変遷が起こります。18世紀にいちはやく産業革命を起こし、19世紀には繊維産業で圧倒的な地位を占め、さらに自動車産業でも優位を保ったイギリスのマンチェスターは、ご承知のように、アメリカ経済の発展の中で衰退し、人口減と中心部の荒廃まで経験しました。しかし、20世紀末ごろのファッション産業の成長、BBC報道部のロンドンからの転入などを契機にしてメディア産業の拠点づくりがはじまり、ブラックホールからの脱出の兆しがみられるようになりました。

こうした事例は、製鉄業で隆盛を謳歌していたアメリカのピッツバーグや自動車産業のメッカであったデトロイトなどが、新しい形で復活してきたのを見ても判ります。こうした変遷の中で、まちづくりの色々な新しい動きが強調されてきました。「クリエイティブ・シティ」とか、「ウォーカブル・シティ」とか、「スロー・シティ」とか、「スマート・シティ」などの提唱がそれです。

松永安光さんの新しい提案は、こうした動きが世界中に拡がると、世界の都市の平準化、均一化が進行し、夫々の都市の個性が薄れるだけなく、個々のまちの個性は失われ競争力をもてなくなってしまうのではないかということです。そのよい例は、近代化されているJRの各駅とその周辺のまちづくりです。いま、日本の主要都市のJRの駅は、東京都の古い建物を除くとすべて没個性的です。この欠陥を克服し、個性があり、最近話題になっている外国人観光客の話題都市になるためにも、永い歴史のなかで、夫々の都市が確立してきたレガシーにまつわるレジェンドを広く深く解明し、付加してゆくことが必要であります。しかも、重要なことは、こうした「レガシー」や「レジェンド」を集めてゆくだけではなく、全体のスキームを統合する「ストーリー」を脚本してゆくことです。

私たちは、明治開港によって西欧文明・文化伝来の窓を開くことになっただけでなく、大都市直下型の震災を経験して再建することによって21世紀の日本の一大拠点となった神戸市の輝かしいストーリーをプロデュースすることによって、誇りをもてるまちづくりに励まなければなりません。