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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第126号

2017年7月3日発行

〜新しい精神革命が必要になった時代〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

みなさんは、従来優れた政治家になろうと思う人々が好んで読むようにしていたといわれる安岡正篤さんの著書、たとえば「東洋宰相学」(福村出版、1988年)をお読みになったことがおありでしょうか。この本のなかで、安岡さんは、政治家の理念がどうあろうと、実際は、権力・名誉・利権と密接に結びついて、ひとたび政権をとると、どうしても堕落しやすい。しかも、政治家は恐ろしく多忙で、始終時間に追われ、その心情を荒(すさ)ませる。そのうえ、近代社会の生態とイデオロギーがまた政治家を粗悪にし、機械化する傾向があり、自然に自己の主体性を喪失させてゆく。こういう数々の原因から、ある階級・ある組合・ある政党の1人であるということの外に何の実質もない、有るといえば政治的欲望と動物的精力と利己的打算とに過ぎないような政治家が徒に増加することになるという、実に厳しい文章を述べておられます。

近頃の政権を握っている、あるいは、それに対峙している政治家の皆さんの行動を眺めていると、残念ながらこの安岡さんの言葉は実感をもって受け入れざるをえない展開が多くなっています。安岡さんはこの本の中で、「もし現在政治家の一人でも多くが、何よりも先ず、自己自身の精神革命・人間革命を行うことができれば、それこそ現代の暗黒に貴い光明を点ずるものである。私は常に宗教的祈願をこの点について抱いているものである」と述べておられます。

かつて、哲学者カール・ヤスパースは、紀元前800年から同200年に亘る原始的未開と言ってよい時代、人間としての生き方を求めて中国では、孔子や老子、インドではブッダ、ギリシャではホメロス、パルメニデス、プラトン、アルキメデスなどが、お互いに何の連絡もなしにそのあとの社会の基軸になる精神革命を求めて立ちあがったことに注目しています。私たちはいま、グローバリゼーションの中で展開されている所得格差による社会分断や環境破壊による地球崩壊の危機に立とうとしています。こういう危機の中で、政治家の皆さんは残念乍ら安岡さんが指摘した堕落から立ち直ろうとしているとはいえない状態です。これらのことを考えると私たちはいま世界的規模で、かつてヤスパースが言った「基軸時代」にも匹敵する新しい精神革命・人間革命の必要な時代に直面しているといわねばなりません。もっともこれを政治家に求める前に、実は彼等を選ぶ私たち自身の課題になっていると自覚しなければなりません。


(注)ヤスパースの「歴史の起源と目標」の重田英世訳では原語のAxisは「枢軸」とされていますが、私は山折哲雄の「ひとり哲学」の中で使われている「基軸」という言葉を採用させて頂きました。