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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第125号

2017年6月1日発行

〜ドイツの高等森林官の示唆すること〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

欧州諸国のいわゆる絶対主義(すなわち、君主に至上の権力を付与した専制的な政治形態で、封建制から資本主義的近代国家への過渡期に位置づけられる)の財政的基盤は、金、銀、銅などの地下資源と木材とでありました。なかでも木材は豪奢な宮庭生活維持だけでなく、地下資源の発掘や運搬、艦船の維持など、とてつもない木材の大量消費を必要としました。それもあって国全体の森林枯渇が発生し、絶対主義は自らの財政基盤を破壊することになりました。そこで、森林の保続と栽培が必要となりましたが、それを支える林業人は劣悪でした。そこで、ドイツでは18世紀から19世紀にかけて林学の発展が重視されるようになり、それに関連して科学的に教育された林業人の育成がはじまり、19世紀初めは国立森林アカデミーが創設され、秀れた高等森林官も生まれるようになりました。

こういうドイツ林業人の育成について最近、村尾行一教授が、その著「森林業」(2017年5月刊)で詳述しておられます。教授によると、ドイツと日本の林業の違いを、地形等自然条件に求めてはいけない。ドイツの林業は、全員が体系的な職業教育制度で養成され、その成果が重い国家資格試験で認証されたプロの森林業です。それに反して、日本の林業は素人で運用されている森林業に過ぎないといわれています。

ご承知のように、英国では山岳もしくは森林は、国土面積の9%しか占めていないのに、わが国は7割強も森林面積をもつ世界でもトップクラスの森林王国です。わが国でも江戸時代にドイツ同様に色々な理由で森林枯渇が起こり、六甲山なども完全に禿げ山になっていました。六甲山は明治後半に植林が始まり、今日では全山樹木で覆われるようには、なっています。しかし、国全体としては、製造業を中心とし、近代的国家づくりに集中するとともに、第二次大戦後の経済成長にともなう木材不足をカバーするための木材輸入の自由化を行った結果、日本林業は産業としての発展機構を失って今日に至っています。

それを考えると、先述の村尾教授の指摘は、きわめて示唆的です。私たちは、阪神・淡路大震災を契機に、わが国が世界でも際立った天災大国であることに気付き自然条件の保全の必要性を自覚し、人材育成にも着目するようになりました。

しかし、国土面積の中央に脊梁山脈をもつ森林王国で、その森林のもつ諸機能、すなわち、@生物多様性保全、A地球環境保全、B土砂災害防止、C水源涵養、D快適環境形成、E保健・レクリエーション、F文化などを考えるとドイツがかつて試みたように、改めてわが国でも森林学とそれに基づく林業人の育成に努めなければならないと思います。いや、ひとり林業人だけでない。われわれが直面しているすべての課題に対応するために、教育の重要性について再確認すべきだと考えます。