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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第120号

2017年1月4日発行

〜ツイッター文化時代の世論−米国大統領選挙の一教訓−〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

今回の米国大統領選挙の結果については、米国だけでなく色々な国々で分析されています。トランプ氏が勝ち、クリントン女史が負けた原因はそれなりに言い尽くされているように思います。しかし、かつてニューヨークタイムズ紙の有名な記者だったW・リップマン氏が「世論」という本でとりあげた新聞の世論形成の役割がなくなったことについては、活字文化の時代が終わり、デジタル文化あるいはツイッター文化時代になったからであるという解釈以上に議論が深められていません。

学校で勉強した算数の問題は、解答が1つになるようにつくられています。しかし、社会現象は、いろいろな要因が複雑にからみ合っていてその現象が起こる原因も一つではなく、複雑になります。それもあって、問題を解説、評論する人によって同じ現象であるのに異なった答が示されます。それについて専門的に勉強した人ならそういう複数の答がでてくるわけも知っています。しかし、忙しく働いていて色々な説明を比較検討する余裕も持てない人達は、あらためて色々な答を検討するより、いま自分にとって望ましいと思われる考え方や主張に同調することになりがちです。脳科学によれば、人間はもともと論理より情緒、あるいは感情に動かされ易いともいわれます。

新聞や雑誌では、いままでこうした色々な立場の評論が展開され、いわゆる活字文化が成立していました。しかし、トランプ氏が用いたツイッターでは、長々とこんな理由づけなどを説明するのではありません。みんなが望んでいると思われることについて、単刀直入に発言するだけです。そういえば、今日多くの人々がiphoneや携帯電話で簡潔に通話をし合っています。その意味では、活字文化の時代からツイッター文化の時代になってきたのは事実です。トランプ氏はそれを選挙に最大限に活用して、米国式大領領選挙方式、すなわち、獲得投票の絶対数ではなく、間接的な投票権者獲得に勝利したのです。

しかし、それで思考を止めてはいけません。こんないわゆるポピュリズムとツイッター文化時代になると、言うなら直観的な思いつきや策略だけが世の中を動かすことになり、非常に危険な社会環境をつくることになりかねません。

民主主義社会というのは、世論で作動する社会です。かつてプラトンは民主主義が理想的に作動する社会は賢人の社会であると言いました。しかし現実の社会は賢人だけで成立しているのではなく、色々な人から構成されているのです。その社会で民主主義が正常に生かされるためには、何よりもツイッターで容易に揶揄されないような政治や経済の状態を実現することが必要です。しかし、そういう理想的な状態を実現するのは簡単ではありません。もしそうだとしたら、私たちは、ツイッター文化時代でも自分の考え方を絶対視しないで、自分とは違った考え方がなぜ生かされるのかを考えられる方法を見出してゆかねばなりません。ツイッター時代の世論形成は難しい課題を担っています。