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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第119号

2016年12月1日発行

〜「災後」と「災前」〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

「戦後」という言葉、いや、それに含まれている日本人の色々な発想に対して、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模天災を経験した私たちは、発想を新たにして「災後」という言葉を生かし、「災後の日本」について真剣に立ち向かうべきではないか。これは東日本大震災復興構想会議議長代理になられた御厨貴さんの提言です。明治以降、不幸にして日清・日露の戦争と日中・太平洋戦争を経験し、しかも悲惨な敗戦を経て、戦前・戦後の国のあり方の根本的反省を迫られた私たち日本人にとって、相次いで大規模な地震や風水害を経験するようになった今日、この提言は実に有意味です。私たちは何としても、これからも勃発するといわれている天災に有効に対応できる新しい社会・政治・経済の体制づくりをしてゆかねばなりません。

しかし、そうした災後を考え、それに実効性を保障しようと思えば、「災前」の準備をできる限り充実してゆかなければなりません。このことは、先日神戸市で開かれた第6回自治体災害対策全国会議でも群馬大学の片田敏孝教授が力説されたことでもあります。ご承知のように、東日本大震災の際、釜石の小学生たちは、かねてから熱心に教育指導されていた片田先生の教えに従って、必死に高所にかけ上り、全員が無事に生き残りました。人間は、残念ながら地震や暴風雨などをなくすことはできません。しかし、それに対する避難の仕方、あるいは、これから発生しかねない災害を前もって縮少する工夫をし、訓練しておくことが出来ればそれなりの成果をあげることが出来ます。阪神・淡路大震災の時にも、震災前からまちづくり協議会を作り、災害縮少のための小公園をつくったりしていた地区では、実際の被災を縮少できただけでなく、復興を迅速に達成することができました。公害防除のためのまちづくり運動をしていた地区でも、消防活動だけでなく、復興協力体制を強固にすることができました。同じ名称でも、大震災後に急拠組織された「まちづくり協議会」が長らく自治体との対立折衝の緊張した場になったのとは大きな違いでした。

そういえば、寺田寅彦さんは、天災大国日本では軍隊も国防のためだけでなく、防災のためにも組織すべきではないかといわれました。これは、考えてみると、天災が発生する前、すなわち「災前」にそれへの対応の仕方を準備しておくべきだと主張されたと考えることができます。そう考えると御厨さんの「災後」のご主張を実効あるものにしようと思うと、こういう「災前」の体制づくりと準備が必要不可欠であるといってよいと思います。これはいま全国で考え、実行しなければならないことです。