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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第117号

2016年10月3日発行

〜社会現象としての天災と寺田寅彦〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

戦争とは違って、地震、津波、噴火、竜巻、台風などはその発生を人間の力で中止させることはできません。その限りそれらが自然現象であるというのは間違いではありません。

しかし、それから社会や人間が受ける災害、すなわち、天災は単なる自然現象ではなく、社会現象の性格を強く持っています。そのことを嘗て、寺田寅彦さんは「天災と国防」というエッセイで力説されています。最近、天災を社会現象と認識しましょうという主張も強くなりました。今回は、寺田さんのこのエッセイの中からそのことを再確認してみましょう。

寺田さんはいみじくも、「天災は、人間が自然を征服しようとする野心から作りあげた文明の結果であり、いやが上にも災害を大きくするよう努力しているものはだれあろう文明人そのものなのである」と言いました。そのことは次の二つで説明されています。

第一は、かつて人類が草昧な時代、すなわち、頑丈な岩山の洞窟の中に住人でいたときには、仮に巨大な地震や台風が襲っても、それから生じる災害は、極めて小さいものであったでしょう。ところが、文明が発達し、重力に逆らい風圧水力に抗する様々な造営物を作るといった形で、災害の運動エネルギーに転化するものを大量に作るようになり、天災は巨大化することになってしまいました。

また、第二に、先住アイヌが日本の大部で住んでいたころ、各人の食料も衣服も住居もめいめいの労力によって獲得していた時、弱震も強震も被害はめいめいのものでした。

ところが、文明が発達し、各種の動力を結ぶ電線やパイプや水道などが作られるようになると、一寸した地震でもその結果生じる不都合が全国に波及するようになります。こうして文明が進めば進むほど天災の被害も累進するという訳です。

それだけではありません。寺田さんは、天災の少ない西欧の浅薄な「教科書学問」の横行に蹂躙された人々が、薄弱な建造物を作っている現状を痛烈に批判されます。その延長線上で、寺田さんは、国家の安全を脅かす敵国に対する国防策は熱心に研究されているのに、それと同じように一国の運命に影響する可能性の豊富な大天災に対する国防策はどこで誰が研究しているかも判らず、「思うに、日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、・・・・非常時に備えるのが当然ではないかと思われる」と言われています。寺田さんがこのエッセイの最後に、どこかの国よりも「強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相」と言われるのは刺戟的です。

最近は、地球温暖化のせいで、台風の強度化と頻発化に並んで洪水・土砂被害も激増してきました。天災のこの構造変化も私たちにまた新しい大和魂の振興を喚起していると言ってよいでしょう。