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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第116号

2016年9月1日発行

〜神戸の創生を進めるために〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

このところ久元神戸市長は、神戸創生のために多面的に努力しておられます。その一つに、企業誘致があります。企業誘致が都市創生にどれだけ大きな役割を果たすかは、私が説明するまでもありません。その典型的な事例をして鐘紡株式会社の兵庫工場のことをとりあげてみましょう。鐘紡はもともと新しい工場を大阪に設置しようと計画していました。しかし、工場長に任命された武藤山治は、大阪には既にいくつかの紡績工場が活動しており、職工さん確保も難しいと判断し、神戸で新しい工場づくりをする計画をたてました。

そこで、明治27年、武藤さんは、全国から3千人の優れた女工さんを集めるために、大変な工夫をしました。まず彼女たちのために女学校をつくって、一般教養が勉強できるようにしました。また職工学校も作って、紡績工場に必要な色々な職種の勉学機会をつくりました。それだけではありません。小さいときから工場で働くようになり、母親との教導の機会もなかった女工さんたちのために母親役を果たす何人かの人を雇いました。更に武藤工場長は、独特な家族主義的経営を実践しました。病気になった女工さんを自分で背負って病院までゆくなどもしました。こうした努力の結果、鐘紡兵庫工場には、優秀な女工さんが全国から集まるようになり、営業成績もきわ立った水準になりました。鐘紡はそれを契機に本社まで神戸に移し、武藤山治はその社長になりました。

こうした企業誘致について示唆的な研究をしたのはフィリップ・コトラーです。彼はかつて弟とともに書いた「世界都市間競争―マーケティングの未来」という本で、活力のある多国籍企業の誘致が都市の活性化には不可欠であると主張しました。そのために、中国の多国籍企業誘致のケースなどもとりあげています。そういえば、わが神戸には、有名な多国籍企業ネスレの日本本社があります。同社は世界各地にあるネスレ社の中で最高の成績をあげていますし、一部シンガポールに移転をしましたがP&Gもあり、つい最近はそのビルを使った中国の剣豪集団の活躍も始まっています。

しかし、注目すべきことは、現在でも神戸市内にコトラーがとりあげているような能力をもった企業がいくつかあることです。幸いにしてわが神戸には先端医療産業のような特区対象になっているものもあり、それ以外でもその発展を着実に可能にしている企業群がいくつかあります。最近、複数の業種にまたがった自主的な神戸ブランド確立の動きもあります。いまはいわゆる長期停滞が発生している経済状態です。国の政策でもかつてのようにケインズ経済学とか新古典派経済学とかいった一つの政策体系で割り切って策定できなくなっています。

こういう状況下で、神戸の創生を図るためには、あらゆる手法を探求して神戸産業の活性化を実現していくことが望まれます。長期停滞を克服するためには、企業だけでなく、市当局も内外に対して新しいマーケティングを工夫してゆかなければなりません。