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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第114号

2016年7月1日発行

〜ネスレ日本の高岡浩三さん〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

世界経済全体がいわゆる長期停滞状態で低迷し、多くの企業がその存続に苦しんでいます。なかでも、わが国は80年代のバブル崩壊と先進国で最初となった少子高齢化の進展とが重なって、残念ながら長期停滞のモデル国のように批判されてきました。ところがその日本で営業をする株式会社ネスレ日本が、世界各地で活動するネスレ各社よりも実質内部成長率と営業利益率で最高の業績をあげているということは誠に示唆的なことです。

そのネスレ日本の社長兼CEOである高岡浩三さんが最近母校神戸大学でその秘密の一端を明らかにされました。このところご承知のように直面している世界経済の低迷からいかにして脱出するかについて色々な提言がなされていますが、高岡さんのその説明はきわめて刺戦的です。氏は年来共に討議を深めてきたフィリップ・コトラー教授のプログラムを実践しているのだといわれるのです。

コトラー・プログラムの根本は、顧客問題の根本的解決の指標である付加価値創造のためには、顧客の今迄認識している商品機能により便利な新しいものを追加する程度の「リノベーション」ではなく、顧客をとりまく色々な環境条件や意識の変化に対応して、顧客がいままで考えてもいなかったような機能を開発する「イノベーション」を実施することが必要だと考えて模索することにあるようです。

コトラー・プログラムの特徴は、たんにモノづくり、あるいは、サービス提供において、顧客の気づいていない問題を解明し、イノベーションを展開するだけではありません。製造以外に企業活動の他のすべての分野、すなわち、財務、人事、営業、研究開発、コミュニケーション、および、サプライチェーンなどの分野に亘ってそれぞれのスティクホルダーとの関係で今迄通りのマネージメントを続けるのではなく、イノベーションを確立することに努めることにあります。

イノベーションという言葉を最初に経済学の中に導入したJ.A.シュムペーターは、それを新結合または創造的破壊といい、次の5項目をあげました。(1)新しい製品やサービスの生産、(2)新しい生産方法の導入、(3)新しい販路や市場の開拓、(4)新しい原材料の供給源の獲得、及び(5)新しい組織の実現などがそれです。しかし、コトラーのイノベーションの定義はこれと違って、顧客もしくはスティクホルダーが今迄思いもかけなかったような新しい視角と結びつけられています。

しかし、この課題に応えようとすれば、それは企業のリーダーだけで達成することは出来なくて、企業を構成する多くの人が自覚的に協働しなければなりません。別言すれば、リーダーが偉れたイノベーターであるだけでなく、全構成員から敬愛され、その協働をえなければなりません。高岡さんは何よりもその条件を備えることによって、この難しい課題を解決しているのです。