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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第113号

2016年6月1日発行

〜今迄の災害検証を生かす復興体制の確立〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

わが国の震災検証報告書は、世界でも類をみない厖大な内容になっています。私個人が座長を務めた兵庫県の2つの検証、すなわち、震災5年後の国際総合検証と10年後の総括検証の報告書だけでも、合計5,571頁に達します。それ以外にも「ひょうご震災記念21世紀研究機構」で出版した「震災対策全書4巻と別冊」や「翔べフェニックス」のほか震災フォローアップ委員会で作成した「阪神・淡路大震災の教訓」という副題をもつ「伝える」(2006年)とその改訂版(2016年刊)もありますから、阪神・淡路大震災の検証だけでも実に厖大な量になります。

また、東日本大震災の検証も未だ兵庫県のようにまとまった形になっていなくても、実に多様かつ大量です。そこへ、この4月からの熊本・大分の大震災が起こりました。この20年間に亘る2つの大震災の検証にもとづいて、熊本・大分地震の対応は、今迄よりもより万全な形で行われたかと言えば、残念ながらそうではなくて1.17や3.11の教訓が生かされていないのではないかという声があがっています。

その典型的なものは、アメリカの元連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官を29年務めたレオ・ボスナーの批判です。彼は日本人の対震災諸活動に敬意を表しつつも、今回の熊本・大分震災対応のように色々な欠陥をもつようになる最大の原因は、FEMAのような対震災活動についての統合体制がなく、日本の対震災活動がバラバラになっているからだといいます。そう言えば、わが国には常勤で永年勤続の災害管理者もなく、政府機関と民間など非政府機関の頑固な連繋関係も確立されていません。官僚組織は専門職制ではなく、せいぜい2、3年でその職種を変えてゆく万能型職員登竜制度になっています。彼も認めているように、FEMAタイプの統合体制でも運用の仕方によっては、ハリケーン・カトリーナの時のように失敗も生じ、万能ではありません。しかし、災害大国日本では、いまこれまでの復興体制そのものを根本的に再検討する必要があることは間違いありません。

いうまでもなく、わが国にも内閣府の「日本の災害対策」で示されているような防災体制があります。しかし、最近、河田恵昭教授が紹介したようなアメリカの“After Action Review” のような一体性が欠けています。すなわち、アメリカの場合、15項目に亘って38の政府官庁の役割分担が決まっているだけではなく、それぞれの項目について(1)主要機関になるもの、(2)調整機関になるもの、および(3)支援機関になるものが定められています。わが国では最初にあげた有意義な兵庫県の検証提言も、アメリカの“After Action Review”のように生かされているとはいえません。マスメディアで展開されている数々の評論や提言もばらばらで災害復興体制の中に体系的に生かされるようになっていません。わが国は何回もふれましたように、世界にも例のない災害大国です。災害復興体制についても、あらためて世界のモデルになるような体制づくりを考えなければなりません。