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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第112号

2016年5月2日発行

〜熊本大震災の投げかけた課題〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

1923年の関東大震災は周知のように死者10万人を超える一大惨事で、被災規模から言うと、阪神・淡路や中越や東日本などの大震災よりも遙かに巨大な災害でした。あれから12年後に、寺田寅彦博士は、わが国が世界に冠たる天災大国で、それに対応できるためには軍隊でさえ、国防用と災害対策用に分けて運営すべきであると警告しました。しかし、当時わが国は準戦時体制に入っており、その後の戦時体制の進展につれて天災対策の検討は放置されてきました。敗戦後には前記のような大震災が3つも勃発し、今迄とは違ってその度に減災、復興対策の重要性が声高く力説されてきました。

しかし、この度の熊本大震災は、「本震」と呼ばれた激震が2度もあり、しかも、長期間に亘って地震活動が続くというかつてない事態もあって、被害の大きさとは関係なく、わが国の地震対応の在り方に多くの課題が依然として残っていることを露呈することになりました。先述した寺田博士は、「日本人の自然観」というエッセイの中で、日本人が厳しい自然災害に耐えながらも、その優れた能力を形成してきたこともあって、発達した西欧科学の成果をなんの骨折もなく継承できるようになっていることもあって、豊富な天恵をより有利に享有すると同時に、わが国に特異な天変地変の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく世界中でわが国ほど都合よくできている国はないであろうとも述べています。この寺田博士の主張に応えるためには、私たちはあらためて、二度の「本震」を想定した今回の震災の諸問題を徹底的に検証し、そこから生まれてくるであろう減災・復興対策を総合的重層的に確立する体制づくりをしなければなりません。そのためには、次の2つのことが望まれます。1つは、震災対策を一過的対策と考えてはいけません。何よりも震災を日本国土の構造的課題とし、それに備える対策の確立を図らねばなりません。また、最近は、これだけ社会的分業が発展し、人間が生きてゆくためには、実に多数の人々の働きに依存しなければならなくなっているにも拘らず、ともすれば独りで生きているように考えて、行動する人が多くなっています。

しかし、天災から生きのびるためには、周知のように自助・共助・公助が必要です。私たちは、あらためて、多くの人達や組織の協同なしに自らの生活を維持することが出来ないことを確認して立ちあがらねばなりません。熊本大震災は近く勃発するといわれている南海トラフ大震災に備えるためにも、実に多くの課題を投げかけています。