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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第111号

2016年4月1日発行

〜世界的金融不況下の経済再生
                ― 課題先進国日本(その6) ―〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

最近の米国の大統領選挙が象徴的なように、世界の政治は混迷しています。それに劣らず世界の経済も深刻な課題を抱えたままです。そんな時に、嘗て財務長官も務めたハーバード大学の元学長ローレンス・サマーズ氏は、有名になった長期停滞論とも関連し、この状態は、1990年代に日本がはじめて作り出したバブル崩壊と同じもので、日本はその解決の担い手になるべきものだと述べたことがあります。いうまでもなく落ち込んでいるデフレ克服による経済再生がそれです。そのため、いま日本銀行は、安倍内閣の「三本の矢」および、「新三本の矢」の意向に添えるように金融緩和を軸とした政策をとっています。80年代を通じて急速に成長した日本経済を分析したMIT(マサチューセッツ工科大学)の有名な分析「Made in America」でも示されたように、当時の日本経済の繁栄は色々な原因によるものでした。したがって、そのバブル崩壊に対処し、経済再生を図るには、もともと金融政策だけでは十分でありません。最近、日本経済研究センターが、「2%成長の実現に第3の開国を」という報告書でまとめたように、日本経済の再生にはICTを活用した労働生産性の飛躍的な向上、構造改革を伴う競争促進や外資の呼び込み、高齢者・女性活用、債務残高の名目GDP比率の改善などのような総供給と総需要の両面での改革を不可欠としています。しかし、岩盤のようになった既存制度や慣行の改革は中途半端であったり、曖昧であっては成果をあげることができません。戦後の日本の経済改革は占領軍の命令で貫徹されましたが、小泉構造改革のような形では、目標どおりの成果をあげる改革にはなりませんでした。したがってサマーズ氏のいう脱停滞の成功も、現状のような対応では困難であるといわねばなりません。白川前日銀総裁とは違って、黒田総裁のとった金融緩和政策は運よく、株式市場復調の諸条件と重なりました。しかし、中国経済の停滞、EU諸国および石油価格の大幅低下に伴うOPEC諸国の経済低迷等もあって、この種の金融政策の理論的予想効果は機能し難い状況にあり、財政政策の必要性が説かれる状況になりました。しかし、今の世界経済は、マネタリズムとケインジアンの対決だけではすまない状況になっています。先述の日経研センターの「第3の開国」のような改革を決意することによって、かつてソローが注目した全要素生産性の向上も図らねばなりません。かつて5年間に5人の総理大臣が登場した日本の政治体制は、この近年は変わりました。しかし世界的に政治的安定性が消失しようとしており、わが国でもその安定性が問題になりそうな今日、日経研センターの「第3の開国」にも多くの課題が残されています。