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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第107号

2015年12月1日発行

〜労働力人口の減少と構造改革
          ― 課題先進国日本(その2) ―〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

一国の経済成長率は、需給両面から説明されるべきものです。しかし、今回は供給面だけから接近しましょう。周知のように、供給面からの経済成長率は、労働力人口の増加率と労働生産性の上昇率を加えたものにほぼ等しいと説明されています。ところが、わが国人口の少子高齢化は世界でもトップレベルになり、それに応じて総人口も減少し労働力人口の増加率もこの数年来マイナスになっています。もっとも、総人口が減少しても、いままで就業していなかった女性の参加や、高齢者の定年制の延期および移民などによって、労働力人口の減少を防ぐ可能性はあります。しかし、労働力人口の増加率の減少にもかかわらず経済成長率を維持または増大させようと思えば、基本的には労働生産性の上昇率をそれだけ増大しなければなりません。

ところで、この労働生産性の上昇のためにはノーベル経済学賞を受けたソローが説明しているように全要素生産性を上げなければなりません。それは、政治制度の安定度、市場の開放度、起業のしやすさ、労働市場の自由度、ジェンダーギャップ等々によって規定されています。しかし、こういう諸制度は、それぞれの国で永い歴史的経過を経て形成されているものですから、それらを変更することは「岩盤破壊」といわれるように決して容易ではありません。周知のように、わが国でも敗戦後、明治維新以来の財閥制度やいわゆる寄生地主制などは占領軍の命令で廃止され、競争的な自由起業制度や自作農、労働三法などの制度が新しく確立されました。しかし、その後の技術革新やグローバリゼーションの展開の中で一部の外国から社会主義的とまで言われた産業保護政策の変革が要請され、小泉内閣時のような構造改革が着手されるようになりました。しかし、こうした構造改革は、政治と産業との関係だけでなく産業間、階層間の既存の利害関係の大きな変革をもたらすことになり、決して容易ではありません。バブル崩壊後のデフレ経済と労働力人口の減少のマイナス効果を克服するために、いまわが国だけでなく、世界各国でそれぞれ特有の岩盤破壊が要請されています。本欄でもまた別の機会にとりあげることになりますが、弾力性の欠けた国有企業と国家統制機構の大きな変革を要請されている中国でも、労働力人口の減少がはじまったいま労働生産性向上のために全要素生産性を規定する制度的な枠組みの大変革が要請されています。しかし、一党独裁の国でも、この改革は極めて国難になっています。こうした国難は、不幸にして、いま、米国でも、EU全体でもみられます。このような世界的苦闘の中で、最大の労働力人口減少率をもつわが国が先進的にこの課題に踏み出すためになしとげなければならないことは山積しています。