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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第106号

2015年11月2日発行

〜減災と防災 ― 課題先進国日本(その1) ―〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

いま世界各国は、色々な課題を担って苦闘しています。その中には、幸か不幸かわが国が先頭をきって対応してきたか、または、対応しているものがいくつかあります。私は、それらをこれから数回に亘って「課題先進国日本」としてとりあげ、短い文章のため意を尽せないかもしれませんが、本欄で私見を述べさせて頂きます。

その第1は、国民生活の安全の中でも重要な天災に対する減災・防災の努力です。最近地球温暖化もあってか、世界中で洪水・旱魃などの天災が増大しています。しかし、地震・津波・台風などの天災は、世界の中でもアジアが圧倒的に多く、そのうちでも寺田寅彦さんが言われるようにわが国が天災大国になっていることは周知の事実です。

しかし、これまでわが国では、天災が日常化してきたためか、減災・防災の問題を国家的課題と自覚することはなかったといえます。その証拠の一つに、安政年間3年続きに起こった5大地震と1大風水害は、死者11万人を遥かにこえるような天災であり、当時の幕藩体制にとっても重大な危機を齎すものであったにも拘わらず、教科書にもとりあげられませんでした。幕藩体制の崩壊は、黒船の来襲と安政の大獄に象徴される薩長両藩を主とする倒幕運動で説明されていました。

この点、従来地震もなかった欧州、とくに1775年のリスボン大震災と津波のとき、当時の代表的論者であったカントやヴルテールなどを中心に大討論が行なわれ、いままでの自分たちがよりかかってきた「知の変容」と都市の在り方変革との必要性を力説したのとは根本的に異なっています。

その点、大都市直下型の活断層地震だった20年前の阪神・淡路大震災は、バブル崩壊後のわが国に大きな課題を投げかけることになりました。全国の活断層と日本列島の下に入り込んでいる4つのプレートの確認がそれです。4年前の東日本大震災はその認識の重要性を再確認させることになり、30年以内により大きな災害をもたらすと想定される南海トラフ地震が起る可能性があることも真剣に自覚されるようになりました。

災害は、既存社会の諸矛盾を顕在化させるとともに社会的弱者に最もきびしくあたることになります。私たちは残念ながら、この20年間だけに限っても、わが国の色々な天災の救援・減災とそれからの復興に決して成功しているとはいえません。しかし、そのために努力してきたことによって他の国々から一つのモデル国にされる成果をあげてきたことは間違いありません。天災を受けた各国の皆さんが、見学に来日され、その復興のための支援を求められるのはその一つの証拠だといってもよいと思います。

世界各国には、今天災と苦闘している国または地域がいくつかあります。それに少しでも寄与できるためにも、私たちは、私たちが苦闘してきた天災とそれへの対応の仕方をより徹底して検証し、前進しなければなりません。