「理事長 新野 幸次郎 巻頭言」一覧へ

神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第105号

2015年10月1日発行

〜知・情・意と教育〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

かつてアメリカの経済学者K・E・ボウルデングは、生産に必要なのはエネルギーと資材とノウ・ハウの3つであるといいました。そして、1981年に神戸のポートピア博覧会でのシンポジウムにきたとき、彼は、エネルギーも資源もない日本が、アメリカに次ぐ第2の経済大国になったのはその素晴らしいノウ・ハウの蓄積のお蔭であると断言しました。そういえば、かつて福沢諭吉は有名な「学問のすすめ」という本の冒頭に「実語教」に「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」と書かれていたことをとりあげていました。しかもその際、この「実語教」には括弧もつけていません。「実語教」は寺子屋で使われた永年に亘って教科書で、皆に知られていたからです。

実際、わが国の徳川時代には商品経済の発達に伴って各藩とも藩校や私塾や寺小屋を設けて人々が勉学に励むようにしました。当時日本を訪問した外国人の手記に、日本人の識字率の高さや人間の素晴らしさが称揚されていたことはご存知のとおりです。しかし、最近、知識の教育は発達しても、社会や組織の存立を担う人間の情や意に関する教育が欠けるようになりました。智の重要性を力説してやまなかった「実語教」も「人として孝無き者は畜生に異ならず」などと父母、師君、友人、兄弟に対する接し方などについても情を尽すことの大切さを力説していました。徳川時代最大の私塾といわれ九州日田で咸宜園を開いた広瀬淡窓などは、いくら品行方正な人格者であっても「温柔敦厚」(温みがあり、物やさしく誠実で真心のこもった)な人でなければ行なうことに情が入っていないといい、その情を豊かにするためには詩をつくることに努めなければならないといいました。近年でも智の高さの指標とされるIQが高いだけでは駄目で、人間の能力の差は、自制、熱意、忍耐、意欲などを含めた「こころの知能指数(EQ)」によることが力説されています。しかも、EQの形成には、子供時代の家庭や学校における情動学習が決定的に重要であると言われています。私たちがお互いにしっかり確認して努めなければならないことです。近頃の民間TVには、残念ながら見たいと思う番組があまりありません。しかし、先日、ふと見た松岡修造さんの「炎の体育会」TVだけは途中からでしたが、最後まで見てしまいました。そこには色々な事情で目標を達成できない子供たちをテニスを通じて体当りで変えようとする松岡氏の姿が報道されていました。ノーベル賞を受賞したバートランド・ラッセルは「教育論」という本の中で、教育の目的を、感受性、知性、勇気、活力をつくることだと述べています。すべての親や教師たちが文字どおり親身になって、知、情、意の備わる子供達の育成に成功すれば、私たちが暮らす社会も楽しいものになることは間違いありません。