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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第102号

2015年7月1日発行

〜日本的経営の危機とその課題〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

かつてアベグレン教授は、終身雇用制と年功序列制と企業別労働組合の三つを日本的経営の特徴といいました。考えてみると、この三つとも日本の企業家の必死の努力の結果でした。新しく産業企業を起こそうとしても、意図したものづくりの出来る職工もいないので、自分で職工学校を設けて養成しなければなりません。折角養成した職工さんはその能力の向上に応じて賃金をあげ、折角養成した職工さんですから、最後まで働いて貰いたい。こうして養成された人達の集まりとしての労働組合ですからその組織も企業別になったという訳です。

しかし、こうした起業活動は、日本より先に資本主義化していた国でも、またあとから資本主義化した国でも制度化されることがなかった日本独自のものでした。企業活動も組織毎に異なる労働力の提供も、多くの国々では全く個人的な営みの結果であり、各人はその能力によって対応してきました。公の職業訓練校がそれに並行して設置されてきました。企業家は、職種の難易度に従って賃金をきめ、労働者はその能力に応じて職務先をきめてきましたから、年功序列制もなく、組合活動も企業別ではなく職種別労働組合になりました。

この違いは、景気変動に対する雇用関係にも、決定的な違いを生みます。わが国では、不況時に賃金を減らしても雇用は維持して状況を乗り切ろうとしてきましたが、外国ではすぐ首切りをすることになります。しかも、グローバリゼーションとITの発達とは、この動きを決定的にし、日本的経営は重大な危機を迎えることになりました。

おまけに、日本的経営は、加護野忠男教授も指摘するように、働いている従業員の家族主義的な連帯によって維持されてきました。ところが、株主や資金操作によって国際的に収益をあげている資本グループなどは、その都度都度の短期的な収益の拡大を意図します。企業は株主=資本家のものとされ、いわゆるアクティビスト(モノを言う株主)が重視され、株式会社もそのための社外取締役の導入などを要求するようになります。またこうした動きの中で企業の利潤率は、CEOをはじめとする経営者の給与を高額化することによって高められるという考えも支配的になってきています。

しかし、いうまでもなく、企業活動はCEOたちを支える従業員の努力と能力とによって行なわれています。日本的経営の本質とされる家族主義的な人間関係は、その根幹をなすものとして機能してきました。グローバリゼーション展開につれて強まってくるアクティビストの発言に対して、日本的経営は、ひとり、日本企業のためだけではなく、これからの世界の資本主義の発展にとって不可欠な存在意義とはたらきをもつものであることを具体的に実証してゆくことが望まれます。これは日本的経営にも厳しい自制を求めることになるでしょうが、日本の労使はこぞってその実現を期さねばなりません。