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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第96号

2015年1月5日発行

〜「貝原俊民前兵庫県知事の創造的復興」について〜

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

阪神・淡路大震災から20年経ちました。その復興の先頭に立って全身全霊を捧げられた前兵庫県知事貝原俊民さんが不幸にして急逝されました。貝原さんは、周知のように大震災からの復興は「創造的復興」でないといけないと主張されていました。しかし、この概念は正当に理解されているとは思えません。一部には、被災者の生活復旧など配慮しないで、新しい箱ものやインフラをつくることを「創造的復興」と解釈している人もあります。また一部には、本当に復興できるようにするためには、日本の政治・経済の体制を根本的に変革しなければならないのに、「創造的復興」の発想は、震災復興のことしか考えていないと解釈している人もあります。

ところが、貝原さんの「創造的復興」は、そのどちらでもありません。貝原さんは、阪神・淡路大震災を20世紀の近代西欧文明の陰の帰結と受けとめました。いいかえれば、神戸を中心とする被災地が、20世紀の100年間、日本の近代化を先導する地域として、近代化の負の部分を十分に自覚することなく発展してきた結果として、大震災のひどさを捉えました。もしそうだとしたら、大震災からの復興は、20世紀の近代西欧文明体制を超克したものでなければなりません。

貝原さんは、こうして真の復興は、21世紀にも適用でき、21世紀に日本が担うべき役割を果たすことができる都市・地域機能をもつことであるとされました。具体的に言えば、人間が人間らしく生きていくための「人間サイズのまちづくり」や、安心して生活できる環境づくり、健康・医療・福祉・芸術文化・防災といった分野、さらには経営論理に裏打ちされた経済運営の分野などにおいて中心的役割を担う都市・地域をつくることを「創造的復興」とされたのです。

しかし、このように貝原さんの「創造的復興」を解釈すると、その達成が極めて努力のいることであることが判ります。貝原さんは、復興施策について被災者の皆さんからの率直な意見を聞くために被災者復興支援会議、いわゆる「いどばた会議」を百数十回もって補強してこられた。しかし、理想とされた創造的復興は多面的かつ重層的で、その完璧な実現までの道は遠い。その中には、わが国の経済・政治体制の変革まで不可欠の問題として含んでいます。貝原さんは、大きな夢を掲げ、その実現という課題を残して逝ってしまわれました。