トップページヘ戻る
KIURロゴ

理事長 新野 幸次郎 巻頭言

「理事長 新野 幸次郎 巻頭言」一覧へ

神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第90号
  2014年7月1日発行

 

 〜防潮堤論議の示唆すること〜

 

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

 
 世界で最も広く読まれている経済誌である英国の「エコノミスト誌」の6月14日号で、宮城県気仙沼市本吉町小泉地区での防潮堤論議がとりあげられています。
少し調べてみますと、これはNHKが宮城県で流した45分番組をもとにしたもののようです。表題は「日本の巨大な壁」で、副題は「津波防御か、それとも建設業者のための無駄な事業か」となっています。
 政府は今回、被災3県の400キロの海岸に、約1兆円かけて多数の防潮堤を建設する計画で、この小さな小泉地区の住民から景観や環境への影響を懸念する声があがり、住民が「防潮堤を勉強する会」を立ちあげ、既定の方針を変えない県当局とそれに同調する人たちとの喧喧諤諤の論議が展開されてきました。「エコノミスト」誌は、東北大学の津波専攻の首藤伸夫教授の「防潮堤さえつくればどんな個別の津波も撃退できるという保証は全くありません」という言葉や、安倍総理大臣夫人の安倍昭恵さんの「防潮堤はツーリズムに損傷を与え、地域の生態系を破壊します」という言葉などを引用して、事実上「勉強する会」を支援した叙述をしています。また今回の津波は千年に一度勃発したもので、しかも、今小泉地区に計画されている防潮堤は、2011年に襲来した大津波の半分より低い14.2メートルのものにすぎず、しかも、あのとき防潮堤があるからといって、家の後ろにある30メートルほどの丘にも逃げ出さずに津波に巻き込まれた家族の例などをあげて、このエッセイを閉じています。また、インターネット上での被災者の切羽詰まった意見を読むと、防潮堤問題が大変な問題提起であることが判ります。
 東日本大震災は、この一例からも判りますように、単なる「復旧」はできないと考えられ、はじめから今までとは違った「復興」を迫られています。そうなると、「復旧」ではどこがいけなくて、新しい在り方を含む「復興」にするのにはどうしたらよいかを徹底的に考え抜き、皆で議論し合ってまとめなければなりません。しかし、どなたでも判っていただけるように、何を基準にするかで色々な在り方が正当化され、これですべての方々が納得される在り方ですという結論を見出すのは実に難しい。日本の海岸線は3万5千キロメートルもあり、さしあた り防潮堤が必要と考えられる海岸線は1万4千キロメートルもあるといわれます。
 「エコノミスト」誌のエッセイの副題、すなわち、「津波防御か、それとも建設業者のための無駄な事業か」は、この際皆で討議をしなければならない実に深刻な問題提起です。



〒651−0083 神戸市中央区浜辺通5丁目1番14号
神戸商工貿易センタービル18F

TEL 078(252)0984

FAX 078(252)0877

KIURバナー
トップページヘ戻る