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理事長 新野 幸次郎 巻頭言

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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第76号
  2013年5月1日発行

 

 〜有事体制と日本人〜

 

公益財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

 
 ユダヤ人は、国外追放や迫害をうける危険性に備えて、生命がある限り誰も奪うことが出来ないものを身につけるように努めてきたと言われます。ユダヤ人が高い頭脳水準が必要な先端的な科学分野や繊細な手先の技能が要請される芸術分野などで輝かしい成果を挙げてきた理由を、山本七平さんは彼等の直面したこうした有事体制から説明されました。
 そう言えば、ベトナム戦争への派兵以来、米国移住がし易くなった韓国民のなかには、北朝鮮との有事に備えて裕福な人の中にその手配をしている人が多いと言われます。また最近中国で財産形成をした非常に多くの人たちが、子弟の留学と海外移住の計画を実行しているといわれます。同じ移民と言っても戦前のわが国で、生活に困窮した人達が苦労を覚悟して新天地の開拓に移住したのと根本的に異なっています。
 その点、幸か不幸か、わが国では特に第2次世界大戦後、有事すなわち、戦争や事変などの非常の事態が、身の廻りで起こることを真剣に受けとめることなく過ごしてきました。ある専門家は、こうした有事体制を考えた思考や行動をしなければならない外交官でさえわが国には少なくなったと嘆いておられます。
 有事に備えることの必要性は、国防と結びついた安全保障問題だけではありません。一昨年の東日本大震災による福島の原発問題以前には、私達は、かつて松永安佐エ門氏が「国の命」と確信した電力を中心とするエネルギー問題についても有事体制を真摯に考える努力もしてきませんでした。
 ただ、不幸にして私たちは、あらためて深刻な有事体制の確立の必要性を認識させられつつあります。その最初のきっかけは、18年前の阪神・淡路大震災でした。私たちは世界でも初めてといってよいあの大都市直下型の大地震を契機にして、わが国の国土が寺田寅彦さんが嘗て力説されていた天災から避けられない国であることを確認しました。想定外とまでいわれた一昨年の東日本大震災、とくに、そのあとの津波と原子力発電所の事故とは、その認識を一層強固なものにしました。さらに、それは来るべき南海トラフ地震の来襲を確信することになり、いま国をあげてそれに対する有事体制をつくりつつあります。この有事体制は、単にジャーナリスチックなものに終わってなりません。もしそれが発生すると、5分間で大津波が来襲するといわれ、高層建築物もなく、安全なところに避難する時間的余裕もない高知県の某町のような場合、どう対応すればよいかといったことを文字通り具体的に見出していかねばなりません。
 この天災有事体制の確立を契機にして、私たちは、かつて放置してきた政治・経済・社会の領域における有事体制問題を真剣に、知情意をフルに生かして考える国に変えてゆかねばなりません。



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