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理事長 新野 幸次郎 巻頭言

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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第53号
  2011年6月1日発行

 

 〜東日本大震災に思うこと(その3)〜
    ―大牟羅良『ものいわぬ農民』(昭和33年刊)と関連して―

 

財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

 
 東日本大震災の救援に行かれたいくつかの団体と関係していることもあって、夫々の被災地報告をお聞きする機会も多い。その度にテレビや新聞などでは報道されていない生々しい諸事実を知らされ、今度の大震災がいかに大変かを思い知らされています。
 その中の一つに、神戸のような国際的にも国内的にも開かれた都市でのボランティア活動とは違って、東日本、とくに、岩手や福島などの一部では、ボランティアが突然被災地をお訪ねしても、なかなか簡単に打ち解けて貰えないことがあるようです。小さな避難所も多く、しかも地勢などで救援にかけつけたボランティアの休む場所もないということもあって、ボランティアの殺到を制限されたところもあります。
 皆さんご承知のように、被災地の皆さんがこれだけ苦しい経験を強いられながら、冷静に、お互いに救け合って避難所生活に耐えておられる状態は、世界中の方々に感動を与えています。今度の大震災を契機に日本に帰化すると発表された有名な芭蕉研究者のドナルド・キーン教授もそのことをとりあげておられます。東日本大震災は、私たちが経験した阪神・淡路大震災とは比較にならないしんどさです。それでもじっと我慢しながら、復旧・復興の歩みをとろうとしておられるお姿をみながら、私はふと昭和33年に出版された、大牟羅良さんの『ものいわぬ農民』(岩波新書)のことを思い出しました。そこで本箱からそれを取り出してみると、当時私は33歳でしたが、文字通りこの本に感動したようで、鉛筆で一読した感想も書き込んでいます。著者は、小学校の教師や、行商人の仕事もされて、のちに健康保険組合連合の雑誌編集者になられた人です。大牟羅さんは、この本の中で、日本のチベットといわれた岩手県の農民のきびしい生活を丹念に描き出しておられます。貧乏な小作人の生活に較べると、食事の心配もなく、服も靴も支給され、おまけに学歴や社会的地位とも無関係に平等に生活できる軍隊生活の方が有難いという青年や、「できるだけのぞみを小さく持つことによって生きています」というおばあさんの言葉などをちりばめた本です。
 もちろん、戦前や戦後でも昭和30年代のはじめまでとは違って、今の岩手の方々の生活環境は格段に好転しています。しかし、永年の農村や漁村の生活で培われてきた謙虚で、我慢強い精神は、宮沢賢治の詩のように、何ごとにも負けずに生き抜こうという形で残っているのではないかとも思われます。
 それを考えると、戦後最大の苦難に直面しているにも拘わらず『ものいわぬ被災者』の皆さんのために、私たち日本国民は文字通り力を合わせて尽くさなければなりません。



 

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