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理事長 新野 幸次郎 巻頭言

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神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」 第32号
  2009年9月1日発行

 

 〜 市民の幸福について考える 〜

 

財団法人神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎

 
 ノーベル化学賞を受けられた野依良治博士は、先日神戸で開かれた関西科学技術セミナーの基調講演の中でこういわれました。「私たちは不幸にしてナショナル・ビジョンをもっていない。せめて15字以内で、例えば『人類の生存に貢献する国民』といったことが言えるような国になりたい」と。ビジョンの必要性は国だけでなく、個々の市民でもいえます。「市民を幸福にするまち」とか、「安全・安心を保障するまち」とかの言い方がそれです。
 しかし、こういうビジョンの理解の仕方はそう簡単ではありません。例えば、幸福ということについて考えてみましょう。今迄私たちは、幸福は所得の増加関数と考えてきました。所得、それで買えるモノやサービスの量が多ければ、幸せだと考えたのがその一例です。この意味の幸福を豊かにするためには、経済を成長させ、所得を増やすしかありません。その意味では、特定の市民の幸福の程度は一人当たりの市民所得の大きさで測られることになります。
 ところが、数年前に有名な「タイムズ誌」が、「幸福の科学」という特集をしました。その時、全世界で一番幸せだと思っている国民はどこかという検討をしました。驚くなかれそれはフィリピンという答えになりました。フィリピンは、皆さんご承知のように、発展途上国で、産業も未発達、おまけに自然災害や暴動も多くて所得水準は低く、失業者も多いのです。ところが、この国では、人が困ると近所の人々がみんなで助け合って生活してゆけるために、先進国の人達ではとても考えられない幸福感が行き亘っているという訳です。
 そうかと思うと、最近「ニューヨーク・タイムズ誌」の国際版では、別の調査結果が発表されました。それによると、世界で一番幸せだと思っている国は、デンマークだという内容になっています。デンマークは北欧の他の国、すなわちスウェーデンやフィンランドの気候や文化も似ています。ところが、デンマークの人々はこれらの国に比べて現状に満足し、将来に対する期待感が小さいというのです。この考え方では、「幸福=現実−期待」という式で計算されます。もし、現実がどうであれ、期待が大きければ大きいほど、幸福感が少なくなり、逆に不幸な感じが増えることになります。ちなみに、このエッセイを書いたE・ワイナーさんは、老人は将来に対する期待感が小さいから幸福感が大きく、最近は女性の権利が次々と保証され、社会的活動の領域も拡大されましたが、女性の権利意識の拡大に現実はまだ追いついていないから実際には不幸感が大きいと述べています。
 これは、市民の幸福をスローガンにする時にも重要な論点を提供しています。最近亡くなられた碁の名人藤沢秀行さんは、勝とうと思ったら「強烈な努力」が必要だと仰っていました。これはすべての競技で必要なことです。いや競技だけではありません。日常の生活でも幸福になるための「現実」をつくろうと思ったら、その考えをもった個人も企業も行政も「強烈な努力」をしなければなりません。その個々の人達が「強烈な努力」をしないで、他人の力で幸福にはなれません。そういう努力をしても幸せになれない人に対して、フィリピンのように近所の人達の思いやりが始まるのです。こうして考えてみると市民が幸福になることは実は大変なことです。



 

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